影
泡盛屋に来て
泡盛を前にしているところを
うしろからぽんと
肩をたたかれた
ふりむいてみるとまたかれなのだが
いつぞや駅前のひろばで
ぽんと肩をたたいたのもかれで
乗ったり歩いたり飲んだりも
うっかりはできなくなってしまったのだ
かれはいつでもぼくのことを
うしろからばかり狙ってきて
ぽんと肩をたたいては
ひとなつっこそうなまなざしをして
このあいだのあの金
いつ返すんだとくるのだ
『鮪に鰯』（一九六四年）
巴
おまえのお供はつらいというと
んじゃこうやってまっててよと来て
ミミコは鼻をつまんでみせるのだ
おおくちゃいと言ったところ
うそだいミミコなんか
くちゃいんじゃないやと言うのだ
ミミコのうんこでもごめんだというと
かあさんなんかいつだって
おおいいにおいって
いうんだもんと来たのだ
いうんだものと来たのだが
失礼なことを言うかあさんだ
いつでも鼻をつまんでしまうくせに
そしてそのまたはなごえで
おおいいにおいって言うからだ
きゃべつ
売るほどつくっては
いないんだと言いながらも
すぐそこの裏の畑から
ひとつふたつはもぎって来るのだ
おいくらでしょうかと財布を取り出すと
かぶりお横に振って
銭など要らないお持ちなさいと言うのだ
でもおいくらなんでしょうかと言うと
知らない人でもないのだから
高い銭など気の毒なんで
もらえるもんじゃないと来るのだ
でもとにかくおいくらなんだか
もらいに来たのではないのだからと言うと
純綿の手拭でも一本
ほしいのだがと出たのだ
それでもきゃべつは黙っていた
売ろうと売れまいと買おうと買えまいと
黙っておればいいのだ
『鮪に鰯』
獏さん、ピザをバクバクじゃなくてパクパク。
PS 新聞の切り抜きを、ドサッと落してしまったので順不同です。
音楽｜ 南部