ひそかな対決
ぱあではないかとぼくのことを
こともあろうに精神科の
著名なある医学博士が言ったとか
たった一遍ぐらいの詩ををつくるのに
100枚200枚だのと
原稿用紙を屑にして積み重ねる詩人なのでは
ぱあではないかと言ったとか
ある日ある場所でその博士に
はじめてぼくがお目にかかったところ
お名前はかねがね
存知あげていましたとかで
このごろどうです
詩はいかがですかと来たのだ
いかにもとぼけたことを言うもので
ぱあにしてはどこか
正気にでも見える詩人なのか
お目にかかったついでにひとつ
博士の診断を受けてみるかと
ぼくはおもわぬのでもなかったのだが
お邪魔しましたと腰をあげたのだ
『鮪に鰯』(1964年)
ミミコの独立
とうちゃんの下駄なんか
はくんじゃないぞ
ぼくはその場を見て言ったが
とうちゃんのなんか
はかないよ
とうちゃんのかんこをかりてって
ミミコのかんこ
はくんだ と言うのだ
こんな理屈をこねてみせながら
ミミコは小さなあんよで
まな板みたいな下駄をひきずっていった
土間では片隅の
かますの上に
赤い花緒の
赤いかんこが
かぼちゃと並んで待っていた
『鮪に鰯』
存在
僕らが僕々言ってゐる
その僕とは、僕なのか
僕が、その僕なのか
僕が僕だつて、僕が僕なら、僕だつて僕なのか
僕である僕とは
僕であるより外には仕方ない僕なのか
おもふにそれはである
僕のことなんか
僕にきいてはくどくなるだけである
なんとなればそれがである
見さへすれば直ぐにも溶ける僕なんだが
僕を見るにはそれもまた
もう一廻はりだ
社会のあたりを回つて来いと言ひたくなる。
『思弁の苑』(1938年)
上の「ひそかな対決」は、思わず(*´∀`)クスクス・・
私の中では大傑作☆彡
ミミコの独立もずーっと頭に残っていました。
Posted by ゚+。:.sachi.:。+゚