山之口 漠詩集より 4

   鮪に鰯
鮪の刺身を食いたくなったと
人間みたいなことを上房が言った
言われてみるとついぼくも人間めいて
まぐろの刺身を夢みかけるのだが
死んでもよければ勝手に喰えと
ぼくは腹立ちまぎれに言ったのだ
女房はぷいと横をむいてしまったのだが
亭主も女房も互いに鮪なのであって
地球の上はみんな鮪なのだ
鮪は原爆を憎み
水爆にはまた脅かされて
腹立ち紛れに現代を生きているのだ
ある日ぼくは食前をのぞいて
ビキニの灰をかぶっていると言った
女房は箸を逆さに持ちかえると
焦げた鰯のその頭をこづいて
火鉢の灰だとつぶやいたのだ
           『鮪に鰯』(1964年)


   ミミコ
おちんちんを忘れて
うまれてきた子だ
その点だけは母親に似て
二重のまぶたやそのかげの
おおきな目玉が父親似なのだ
出来は即ち茨城県と
沖縄県との混血の子なのだ
うるおいあるひとになりますようにと
その名を泉としたのだが
隣り近所はこの子のことを呼んで
いずみこちゃんだの
いみこちゃんだの
いみちゃんだのときてしまって
泉にその名を問えばその泉が
すました顔をして
ミミコと答えるのだ
           『鮪に鰯』


   養鶏場風景
南の基地の島から来たばかりの
眼だけが光るその男が言った
なんと言っても
さすがは東京なのだ
のっぽの奴らまでがいかにも
おとなしそうに歩いていると言った
そっちの眼のせいじゃないかと言うと
のっぽはのっぽにしてもなんだか
基地のは種がまるで別みたいで
威張り散らしているばかりか
気質が荒くてやりきれないのだと言う
東京あたりはレグホンで
基地の島のがシャモなのかと言うと
男はふとそこに質止まったのだが
おとなしそうな奴ではないかと
アゴで眼の前をしゃくってみせるのだ
           『鮪に鰯』

       

むかしむかしの、新聞の切り抜きより。
誤字脱字は気づいたときに・・


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